児童買春事件における示談について
児童買春事案では示談の位置づけが他の性犯罪関連事件とは異なります。
児童買春罪,正確には,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」違反の保護法益は,未成年者の健全な育成という公益の側面があるからです。
未成年者と示談したからといって,保護法益である未成年者の健全な育成が阻害されたという被害が回復されたことにはならないうえ,未成年者が(有償無償問わず)性交し,示談金を手に入れる,といった過程が,未成年者の健全な育成に適うはずがないからです。
ただ,当該未成年者の親と示談交渉をし,その示談交渉過程で親の被害感情を緩和し,また,弁護人を通じて親が得た事情を基に,親から未成年の被害者本人への指導がいきわたるならば,犯した罪の重さに事後的にではありますが,影響を与えます。ですから,児童買春罪においても,示談交渉は行います。
もっとも,検察実務では,仮に示談が成立したとしても,不起訴にする検察官は少なく,最低でも略式罰金刑には処しています。これも保護法益が公益であることからくる対応なのでしょう。
児童買春事案における示談交渉の注意点ですが,事件の実態としては被疑者と未成年者の合意の上でのことであったということが捜査機関との関係でも争いない場合であっても,未成年の親は合意などなかったという前提で交渉に臨むことがあります。未成年本人としてもなかなか本当のことを親に言えないでしょうし,むしろ,そもそも性教育に未熟な未成年に,性交渉の合意と不承諾の違いはあまり意味のないことだとも言えます。未成年者との性交渉は,特に金銭授受ある性交渉は,そもそも合意などない性搾取であるという前提で考えた方がいいでしょう。ですから,弁護人としては,示談交渉の場において,合意があったかなかったかに関して殊更拘るのは禁物です。
ところで,未成年者が被害者となる事件の示談交渉では,未成年者本人と示談交渉をすべきではなく,その親と示談交渉をすべきです。未成年者本人の連絡先に直接連絡をして示談交渉をし,後になって,その親が知ることとなって示談がひっくり返ることがあるからです。
未成年者を相手に示談交渉を行う場合,示談合意について未成年取消(民法5条2項)を主張されるに至らなくても,被害者が精神的に未成熟であることから,弁護人の説明を理解できず,言われるがまま示談書に署名したとして,事後的に示談書の効力が争われるおそれがあります。ですから,弁護人としては,必ず被害者が未成年かどうかを確認した上で、検察官に示談交渉取次の依頼をするときには「親に連絡して下さい」と伝え,示談交渉の主体を未成年者本人ではなくて親にする必要があるのです。そして,示談書自体は親が法廷代理人として署名締結したとしても,未成年者本人が宥恕していることを示す必要があるでしょう。