外国人被疑者の場合の示談交渉
身柄の早期解放のために示談は迅速に
まず,外国人事件の特性として,日本人に比べて逮捕されやすいという問題があります。特に一時旅行者の場合,日本に定まった住居がないため,勾留の要件であるところの住居不定の要件にあたってしまいます。また,日本に頼れる親族等がおらず,適切な身元引受人の確保が困難ですので,逃亡のおそれも容易に認められてしまいます。もし早期に被害者との示談が成立すれば,検察官も処分保留,不起訴処分として早期に釈放してくれることが多いので,外国人事件においては,終局処分を軽くするという観点のみならず,早期の身柄解放という観点からも,日本人が当事者である場合以上に示談を成立させることが極めて重要であるといえるでしょう。
なお,一時旅行者の場合,事件が終わったら今後二度と日本に来るつもりがなく,したがって日本で前科がつくことにも抵抗がなく,前科を受けてもいいからできるだけ早く母国に帰りたいという意向を有している方もいます。事案によりますが,示談よりも罰金の方が事件が早期に終結しそうな場合には,検察官に早期に罰金処分とした上で釈放してもらうよう申し入れることもあります。
謝罪文の準備の仕方
刑事事件の示談交渉においては,被疑者・被告人が作成した謝罪文を弁護人が持参しますが,謝罪文をどの国の言語で書くかという問題があります。もし被疑者・被告人が,多少拙くとも日本語の読み書きができるのであれば,できる限り日本語で書いてもらうべきでしょう。
しかし,むしろ,被疑者・被告人が日本語で一切読み書きできない場合が多く,その場合にはその使用言語(英語,中国語など)で謝罪文を書いてもらうしかありません。これを被害者に渡す場合は,弁護人又は通訳人が作成した翻訳文とともに渡すことになります。
示談原資の確保の方法
在宅事件の場合や,日本に頼れる親族・友人がいる場合には,示談金原資は被疑者・被告人本人から確保しますが,身寄りが国内にいない場合には,被疑者に外国にいる家族の連絡先電話番号等を教えてもらい,家族から海外送金をしてもらうことになります。海外から送金してもらう場合の方法としては,銀行経由で送金してもらうのが一般的ですが,クレジットカード払いのシステムを所属事務所で利用できる場合は,それを利用してもよいでしょう。
ところで,示談は日本円でなされますが,母国の家族等に資金を準備してもらう場合,被疑者・被告人の母国の通貨に換算した金額を事前に計算して把握し,示談交渉でそのことを被害者に示すべきです。参考までに,外国人被告人の銃刀法違反事件の控訴審における弁護活動で,50万円の贖罪寄付を行い,その金額が被告人母国では2000万円に相当する旨の報告書を提出したところ,原判決が破棄され,執行猶予が付された事例もあります。
示談書の使用言語
被害者が日本人の場合は,通常通り日本語で示談書を作成しますが,被疑者・被告人には適宜外国語に翻訳して説明することが必要です。外国人の場合,契約についての意識や文化も異なるため,後々のトラブル防止の観点からも,しっかり確認しておくべきでしょう。