捜査段階における示談の重要性について
犯罪被害者との示談交渉は,事件に関する紛争を民事的にも刑事的にも終局的に解決する目的で行われるもので,被疑者が逮捕・勾留された場合にはその人の一生を左右する重要な弁護士活動です。性犯罪にせよ,暴行傷害などの粗暴犯にせよ,示談が成立するとしないとでは刑事処分が天と地で違ってきます。
例えば,強制わいせつ罪や強制性交等罪では,捜査段階で示談が成立し,被害者から宥恕(犯人を赦すこと)が得られると高い確率で起訴猶予となります。
ところが,示談が得られずに,あるいは,まったく示談交渉をせずに起訴されると,もし裁判段階で示談が成立したとしても実刑判決になります。前科がなくてもです。一般の方の発想では,前科がなければ仮に裁判段階で示談が成立しなくても,初めての裁判なので執行猶予が付くであろうと考えますし,刑事事件の経験乏しい弁護士もそのように考える人が多いです。ところが,執行猶予を飛び越していきなり実刑なのです。
ですから,捜査段階において,「前科がないからいきなり起訴はないだろう。慰謝料を払ってまで示談する必要はないだろう。もし起訴されたら示談をすれば良い。」と考える人や弁護士がいれば,それはあまりにも裁判の実情を知らないと言っても過言ではありません。
実は,検察官が起訴するか起訴猶予にするかのハードルは,裁判官が執行猶予をつけるか実刑にするかのハードルよりも遥かに低い,つまり,被疑者にとっては捜査段階こそが勝負なのです。例えば,捜査段階では,示談が成立したものの,宥恕文言を得られなかったケースがよくありますが,それでも多くの検察官は示談が成立した事実を重視して,前科がない者であれば,初回は温情を与えて起訴猶予とするでしょう。
しかし,裁判においては,たとえ,起訴後に示談が成立したとしても被害者から宥恕文言を得られず,刑務所服役の厳重処罰希望であった場合には,実刑となる確率が高いのです。裁判官としては,被害者が処罰を希望しているのに執行猶予をつけるわけにはいかないという心証が働きます。
このように,捜査段階で示談を成立させることは重要であり,もし示談交渉活動に弁護士が消極的であるならば,弁護士を変えることも含めて慎重に検討すべきでしょう。