示談,供託そして贖罪寄付

示談,供託そして贖罪寄付

 示談交渉したものの,示談成立にいたらなかった場合,法律上は,供託制度というものがあります。供託は,被害者が示談に応じず,示談金を受け取らなかった場合に,供託所という法務局の部署に損害賠償相当額を預けることを言います。供託をすると示談金を支払ったのと同じ効果が得られるのです。もっとも,被疑者の捜査段階では,被害者の住所を知ることができないケースがあります。特に性犯罪では捜査機関は被疑者やその家族はもちろんのこと,弁護士にも被害者の住所を教えることはありません。被害者保護が徹底しているのです。被害者の住所がわからないと供託は事実上できないのです。供託の申請書には債権者(被害者)の住所を書く欄があるのです。
 供託が無理であれば,次に贖罪寄付という制度を利用することを検討します。贖罪寄付というのは一定の団体・機関に対して罪を償う気持を表明して寄付行為をすることを言います。寄付を受けた機関では受領証明書を発行してくれるので,それを情状を示す疎明資料として検事に提出して起訴猶予を説得します。裁判でも弁護側の情状証拠として請求することがあります。これは,被害者との示談が不成立に終わった場合のみならず,被害者の存在しない犯罪,例えば,薬物事犯や贈収賄事件などでも利用されることがあります。
 どのような団体を寄付先として選択すればよいかは,よく検討しなければなりません。交通事故事件であれば交通遺児関連団体,万引きであれば万引き防止機構,性犯罪であればその被害者関連団体などが寄付先として頭に浮かびますが,そういった団体は,もし寄付を受けて犯人の刑が軽くなるならば望まないという団体もあり,断られることもあります。寄付先としては,その他に法テラスなどもあります。

 問題は,贖罪寄付が検事や裁判官の判断に与える影響,効果です。検事経験を基に言うならば,①示談成立でかつ宥恕文言があるのが最も効果が高いです。起訴猶予になる確率が高いです。②示談が成立したが,宥恕文言は得られず損害金のみ受領してもらったというケースは,①よりも効果は低いですが,それでも捜査段階に示談が成立すれば起訴猶予になる確率が高いです。次に③供託です。供託はもちろん宥恕文言はなく,被害者の処罰感情が強く,示談金を受領してもらえなかったときに採られる手段なので,示談成立と比べて,効果はかなり低いです。しかし,窃盗や横領などの財産犯であれば,金銭的被害回復が図られたとみられるので(供託しても被害者が供託金を受領するとは限りませんが),起訴猶予になったり,起訴されても執行猶予付き判決の可能性があります。最後が④贖罪寄付です。贖罪寄付にかなりの効果があると勘違いして多額の贖罪寄付を依頼者に勧め,結局,結果は変わらなかったという事例を数えきれないくらい聞きます。当事務所で扱った事例で,贖罪寄付に効果があったのは,詐欺や密売などの利欲犯において,違法な報酬を受け取った被告人について,その利得分全額を贖罪寄付して違法利益を吐き出したケースでした。執行猶予は付きませんでしたが,かなり減軽されました。

 このように,起訴猶予や執行猶予付き判決獲得のために,示談,供託,贖罪寄付などの様々な手段がありますが,いずれの手段が,どのようなケースにおいて最大効果を発揮するのかを見通せないといけません。ここでも,弁護士の経験がものを言います。

「示談コラム」に関連する記事

示談による被害届や告訴の取下げ

示談による被害届や告訴の取下げ

 示談は,被疑者にとって一生を左右するとても重要な活動です。経験ある弁護士を早期に選任して示談交渉に入るべきです。特に,万引き,器物損壊,暴行事件,傷害事件(傷害の程度が重篤ではない事件)などの比較的軽微な事件では,性犯罪や殺人等の重大事件と違って, ...

READ MORE

否認事件における示談

否認事件における示談

 否認事件にもいろいろあって,事件性や犯人性そのものを争う否認がまずあります。事件が発生したときはその場にいなかったとか,満員電車で痴漢行為をしたのは自分ではない,あるいは,これは放火ではなく電気系統が火災原因であるといった否認がそうです。このような ...

READ MORE

窃盗(万引き等),詐欺,横領等の示談について

窃盗(万引き等),詐欺,横領等の示談について

 窃盗,詐欺,横領といった,被害者の財産権侵害を伴う財産犯においては,被害回復の程度が加害者,すなわち被疑者や被告人の終局的な処分に大きく影響します。そのため,被害者に対して積極的に被害弁償を行っていく必要性が高いです。被害者としても,失った財産を取 ...

READ MORE

被害者との示談交渉アレンジ

被害者との示談交渉アレンジ

 加害者が事件を起こした後,被害者と示談をしたいと思っても,被害者の連絡先等がわからなければ何もできません。警察官に被害者の連絡先を聞いても教えてはくれません。加害者による被害者に対する働きかけや口封じのおそれがあり,お礼参り,つまり,警察に通報した ...

READ MORE

重大事件の示談について

重大事件の示談について

 重大事件,例えば,殺人罪,傷害致死罪,一部の傷害罪,危険運転致死罪,現住建造物放火など,犯罪の結果が重大で,行為態様も悪質な犯罪では,示談交渉に際して被害感情への特別な配慮が必要です。  このような重大事件のほとんどすべてにおいて共通するのが,被害 ...

READ MORE